ここ、松下記念館は福岡市中央区赤坂に佇む。
その名はどこかの松下さんの功績を称える施設のようだが、実は心温まる喫茶店である。
煉瓦造りの外観はどこか懐かしく、レトロな雰囲気が漂う。
店内に一歩足を踏み入れると、薄暗がりの中で暖かいライトが柔らかに灯り、左手にカウンター、右手にテーブル席が広がる。奥にはマスターらしき男性が静かに座っている。
まるで物語の一場面に迷い込んだかのようだ。私もその物語の一員になった気がした。
いつかこの場所で主人公が現れ、素敵な物語が始まる予感がする。その時私はカウンターで珈琲を飲みながら、その物語のエキストラとして待ち続けるのだ。まだ見ぬ主人公に出会うために。
———
春の日、福岡城跡の舞鶴公園で桜を堪能した後、ふと松下記念館に立ち寄った。
その時は珈琲の気分ではなかったので、違うものを注文した。
ブルーハワイフロート。実はここ、青いクリームソーダが楽しめる喫茶店なのだ。
透き通るような青、碧。とにかく美しいブルーに一目惚れした。
シャポーで出会えなかった青いクリームソーダに、まさかここで巡り会えるとは思わなかった。
———
別の日、再び訪れた時には女性の店員さんがいた。
私がカウンターの端に座っていると、彼女は色々と話しかけてくれた。
最近引っ越してきたこと、まだ道に慣れていないことなどを話すと、彼女は昔この店の前を路面電車が通っていたことを教えてくれた。
懐かしそうに語る彼女の話に耳を傾けていると、私も懐かしい気持ちに包まれた。
路面電車といえば、幼い頃に母に連れられて鹿児島市を走る路面電車に乗り、天文館に行った思い出がよみがえった。
鹿児島の田舎の港町に生まれ育った私にとって、天文館に行くことは特別な冒険だった。
私にとって路面電車は、その冒険の始まりを告げる特別な乗り物だったのだ。
ブルーハワイフロートを飲み終える頃、窓の外にはもう存在しない路面電車が、喧騒の中に消えていくように思えた。
———
▼喫茶情報:「松下記念館」
コメントを残す